Section13 塗装

 航空機の塗装のことだけでも1冊の本を書くことができ、それでもなお多くの疑問に対して応えきれるものではない。入手可能な表面処理剤、下塗り(プライマー)塗料、上塗り塗料には多くの種類があり、さらに優れたものが毎日の様に売り出されている。塗料選択の幅は、どこにでもある従来からのエナメル塗料やアクリル・ラッカーから始まり、最新のアクリル・エナメル塗料、ウレタン塗料、エポキシ塗料まである。どの塗料が最適であるかは、おそらく個々の製作者の希望が最終的な選定要因となる。しかしながら、取り扱いが容易な割に光沢が得られ、その後の手入れが不要であるという理由から、現在、多くのホームビルダーからの支持を得ているウレタン塗料が最も良いように思われる。この章の目的は、最高の塗装の得るための最善の方法を示すものではなく、幾つかの一般的な例のみを示すものである。

カラー・スキーム(色の選定)

 どの種類の塗料を用いて、手順と技術について真剣に考え出す以前に、ほとんどの製作者は、何ヶ月も(あるいは何年も)かけて製作を行っている間に、機体の塗装パターンは決めてしまっているだろう。 この完成に向けて、RVの主要な輪郭が、いつも整って見栄えがするような色と塗分けに関する一般的な指摘事項より他に提言したいことが若干ある。より大胆な色の組合せと塗分けパターンは、結果として"素晴らしい"機体塗装となるか、"目移りするような"派手で俗っぽい印象を皆に与える結果となるだろう。あなたに色彩と塗分けに関する正しい目を持っているならば、それは危険な賭けとはならない。我々は、事前の下書き用に2種類の図面を用意した。一つは透視図であり、もう一つは三面図である。あなたの職場のコピー機で(上司に見つからないように)、これら図面を数ダース程コピーし、色鉛筆のセットを買い、そこにあなたの想う機体塗装を描くのである。美的観点から色の選定について、あなたはまたしても真剣に考え込むことになるだろう。例えば;飛行中の背景(空や地表)から最も目立つ視認性の高い色の組合せは何が良いか?飛行中の他機のパイロットには(自分の機は)、その色の組合せがどのように見えるのか?混雑したエア・トラフィックや多くの空港で生じる大気汚染によるヘイズ(スモッグ)の中で、全てのパイロットへの注意喚起のために見えて、見られるような視認性の高い色にすべきであると。 明るい色は、USAを飛行する上で見られる典型的な背景に対して最も目立つ一般的な色であると考えられている。黄色はおそらく総合的に最も目立つ視認性の高い色であり、機体塗装としても大変魅力的な塗装に仕上げることができる。

 塗装を施した機体よりも無塗装のアルミニウム地の方が速度は速いのではないかという疑問が上がった。RVの試作時の経験では、代表的な塗装表面からアルミニウム地の表面までに機体外板上の摩擦抵抗に僅かな差があることが認められたが、明確な解は得られなかった。

塗装作業における健康への影響

 最新の2液性の塗料を用いたスプレー塗布作業は最も健康へ悪影響を与える。ウレタン塗料、アクリル・エナメル塗料及びエポキシ塗料に使用される硬化剤に含まれる化学成分は吸いこむと人体に非常に有害な毒性を持っている。それは過度に直接皮膚に触れることでさえ人体には有害である。この理由により、塗装作業場は十分な換気設備が施された場所にしなければならない。そしてULが認定した防毒マスクを使用しなければならない。また皮膚との接触を防ぐために全身を覆う防護服も着用すべきである。製作者は往々にして塗料の持つ薬品の危険性を無視する、それは彼らが、比較的危険性の少ないあらゆる種類の家庭用品を日々素手で触れていることに慣れ、無頓着になっているからである。けれども最近の塗料製品に対しては極めて慎重に取り扱うべきであると案じて止まない。

塗料の有毒性について、細心の注意を払うこと!!

塗装の一例

 我々はRV−4試作時に用いられた技法を、一般家庭の初心者に対して実証された"最も理想的な"塗料と技法であると紹介するものではない。RV−4試作時に使われた手法は"アルクラッド"地のアルミニウム表面への酸洗い(デュポン社製255Sクリーナー、Martin Senour社製6879 Twin Etch等)のみの単純な下準備を行った後、アロダイン処理(化成皮膜処理)を行い、それからデュポン社の自動車修理用ソリッド・カラー・ポリウレタン塗料"イムロン"を直接塗るものである。アロダインとイムロンとの間にプライマー又はプライマー/サフェーサーを使うことはできたが、重量軽減のために省略されたのである。最低限の塗膜に要する量のイムロンを用いるだけで、望みどおりの滑らかな塗装面を得る事ことができた。アロダイン処理後、外板は繊維状の外板腐食の一因となるあらゆる湿気を除去するために完全に乾燥させた。これはエアー・ノズルによる空気の吹き付けで行われ、全ての金属の継ぎ目とリベットを見落とさないように繰り返し行なった。RV−6試作機は"重量の最小化"の目標に沿って塗装されたが、この場合にはDitzier Durethane製の塗料(?)が使われた。

 航空機への塗装は、機体重量を明らかに増加させる。重量の合計は、塗装法と塗料、プライマー及び表面の目止め(サフェーサー、パテ)の使用量次第である。"プライマー無し"のイムロン塗装において、必要最低限の塗装における塗料の重さは約15lbs以上だろうと評価した。全ての外表面への入念な塗装は、この量の塗料を更に2回又は3回塗ることでできた。

 補足ながら、厚塗り(重ね塗り)塗装は、塗料の重さが塗装部分の大半である尾部に偏るため、重心位置が後方に移動する傾向がある。操縦舵面のバランスに影響を及ぼすことはRVでは見つからなかった。通常の塗装(1回塗り?)を行った位ではエルロンやエレベータのバランスに目立った変化は生じないだろう。但し、厚塗りを行った場合は、これら操縦舵面の再バランス取りやカウンター・バランス・ウェイト追加の必要を迫られることになるかもしれない。

マスキング

 色の塗り分けやピン・ストライプのためのマスキング・テープ貼りは塗装作業時間の大部分を費やす。直線のマスキングは硬いテープでも十分だが、ちゃんとした正しい曲線や"湾曲した"曲線を得るには技術がいる。ありふれた金物屋にあるマスキング・テープではハッキリとした線の塗分けにはいい結果が得られない。なぜなら端面の"裁ち切り"の仕上がりがあまりにも甘いからである。プラスティック"デコレーター"テープは最適なパリッとしたシャープな端面が得られるが、幾分高価である。プラスティック・エレクトリカン・テープ(絶縁用ビニール・テープ?)はかなり良い作業ができ、比較的安価である。"スコッチ"テープも良いが、塗装作業後にテープを剥がすことが大変である。

 RVの持つ速度性能にどの位の影響を与えるのかは不明であるが、平滑で気流が自由に流れる表面の方が凹凸のある表面より空気抵抗の減少に寄与することに疑いはない。機体塗装部全体が塗装前のパテやサフェーサーによる目止めと、平滑化が十分にされていないと、塗装面が完全に平滑になるまで仕上げの研磨を行うことになる。この作業には多くの労力を伴い、重量の増加を招き、製作者が98%の完成よりも100%の飛行機の完成を求めないと、おそらく賢明な結果にはならないだろう。必要なやるべき作業を行うことによって残る2%の価値が高いものとなる。

 一般的に塗装作業には、仕上げ磨きなしに可能な限り平滑な塗装表面となるように、必ず防塵対策が施された場所で製作者は作業を行うべきである。翼幅方向のストライプの塗り分けは翼の前縁に近接させること避けるべきである。翼幅方向の凹凸による翼型の境界層制御への影響について書かれていることは、気難しい特性の先尾翼機では重要なことである。一つでも凹凸が前縁に近い翼幅方向にあれば、境界層流を分裂させて層流を乱し、抗力の増加と揚力の減少へと繋がるからである。先尾翼機では、これは性能だけでなく、安定性や操縦性にも重大な影響を及ぼす。RVは伝統的な機体形態であり、層流翼型を使用していないので、翼表面の凹凸の影響は比較的少ない。けれども翼前縁先端から数インチ以内の凹凸のある塗り分けは、おそらく失速速度と最大速度への影響が測定できるほどの結果をもたらすだろう。塗り分けによる影響を最小とするために前縁から8−9インチ以上、それでもなお可能な限り平滑にするように研磨すべきである。